私たちは世界最高峰のパルス強磁場を用いて、前人未到の極限環境下における物質の性質を研究しています。こうした環境下で起こる現象を正しく理解するためには、その現象の本質を捉えた物理量の計測が必要です。また得られた結果を深く考察して背景の物理を究明するには、信頼性の高いデータの取得が不可欠です。徳永研究室では、パルス磁場下で使用できるユニークな測定手法の開発や改良も行なっています。

 磁場中におかれた物質がどうなっているかを知る一つの直接的方法は、実際に見ることです。徳永研究室ではハイスピード・カメラ搭載の顕微鏡システムを用いて、パルス磁場下の試料の顕微鏡観察に世界で初めて成功しました。この装置を用いると磁性形状記憶合金の磁場誘起構造相転移を視覚的に捉えられる他、偏光観察によって軌道秩序の磁場融解も検出可能です。また透明な磁性体に対しては微小領域にフォーカスした局所磁化測定もできることを実証しました。

 また磁場中で精密な電気容量測定を行うことで試料のppmオーダーでの変形をとらえることに成功しています。また実作したキャパシタンス温度計を用いることで、磁気熱量効果の簡易計測も実現しています。マルチフェロイック物質に関しては、これまでは検出が難しかった反強誘電相への相転移も検出可能になり、強磁場下における物質の対称性についてより詳細な研究を可能にしています。

 パルス磁場の高速磁場挿引は、ある種の物理量の精密測定に有効です。断熱条件を実現しやすいパルス磁場下では、磁気熱量効果の正確な評価が可能です。物理量の時間変化に比例した電圧信号を検出する磁化や電気分極の測定では、パルス磁場下で得られる信号は定常磁場下の時の100万倍に及ぶため、定常磁場で捉えきれない微小な変化を検出できる場合もあります。

 ユニークな測定手法を用いると世界的に競争の激しい分野でもオリジナリティーの高い研究を展開できます。徳永研究室ではこのようなユニークな研究手段を用いて国内外の研究者と数多くの共同研究を行い、強磁場物性科学の発展に貢献しています。

関連研究成果

ハイスピード・カメラを用いたパルス強磁場イメージングシステムの開発

パルス磁場下における磁気熱量効果の瞬間計測

パルス磁場下の電気容量測定による様々な物性計測

CsCuCl3の磁場誘起強誘電相検出
カイラル磁性体の磁気ソリトン格子?
Fe1+yTe1-xSxの軌道秩序の磁場融解
電子ネマティック状態の偏光顕微鏡観察